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『外事警察 その男に騙されるな』すいません、騙されました……



『外事警察 その男に騙されるな』

 NHKのドラマが人気を博し、映画化へと至ったケースには『セカンド・バージン』が前身として挙げられる。
 あのNHKが、時に羽目を外しすぎるドラマを制作していることだけは、私も知っていた。
 この『外事警察』も、元はNHKのドラマらしく、しかも全6話とお手頃。まあ、こう言うからには私は拝見していないのだが

 そんなドラマ未見な私でもバリバリ楽しめちゃう傑作サスペンスが、この劇場版『外事警察』である。
 あらすじはこんな感じ。

 大震災のどさくさに紛れて、東北の大学からある機密ファイルが盗み出された。
 その事件の五ヶ月前、純度100%のウランが某アジアの国の者達によって日本に持ち出されているという。
 機密ファイルの内容とは――原子力関連のものだとされている。
 これが意味するところは即ち、日本で核によるテロが行われる危険性があるということだ。。
 そこで事件の真相を暴き、解決に導くために政府から極秘裏に使命を受けたのが、公安の魔物と呼ばれた男、住本だった……。


 物語自体は、どうやらドラマ版のその後のようで、住本を筆頭に組まれたチームの連中もドラマから続投しているらしい。
 だがそんなことは大して気にする必要はない。『外事警察』はドラマを観てなくても楽しめるほど、一つの映画として完璧に成立しているのだ。

 まず面白いのは、主人公の住本という男のキャラクターにある。
公安の魔物? 何それおいしいの?」とかヘラヘラしながら観ていたら、危うくチビるところだった。恐らく観る前にトイレに行っていなかったら二度と私はあの映画館に足を運べなくなっていたかもしれない。
 調査を進める上で避けられないのが、参考人からの事情聴取である。
 劇中でも住本はそもそもの事件の発端と思しき老人、ウランの受け渡しに関与している韓国人男性の妻など、様々な人物から話を聞きだそうとする。そして、利用しようともする
 明らかに優しそうな声と表情を作って参考人に接する住本は、ネコを被っているというのが端から見ても明らかなのだ。
 普通なら、観客にもバレないほど裏のない男を演じるのではないか? 私も最初はそう思った。「なんでこんなバレバレな演技をしてるんだろう?」と。
 しかし、住本の意図は別のところにあった。彼はそうしたわかりやすい演技をすることで、相手の感情に揺さぶりをかけているのだ
 利用できるものなら何でも利用する。そのためには、どこまでも自分の感情を押し殺し、相手を感情で突き動かさせる……なんの躊躇いもなく札束を差し出す動作一つとっても、公安の魔物たる所以を感じずにはいられない。
 更に恐るべきは、時に抑え切れない自分の感情さえも武器として利用してしまうことだ――これ以上は言えない。
 劇中ではどうして住本がそんな男になってしまったのかも、さりげなく描かれている。それは、とある人物の自殺を目にしたせいだ。このことも、これ以上は言えないので、是非劇場で確かめて欲しい。

 ともかく、主人公の住本のキャラが抜群に立っており、渡部篤郎はそれを完璧に演じきっている。NHKの集金に住本がやってきたら、たとえ家にテレビがなくても受信料を払ってしまうだろう
 感情を殺せるということは、他人の感情も殺せるということだ。突き詰めれば、他人の感情が死ぬ寸前まで追い込むことができるということになる。住本はそうやって他人を突き動かし、捜査の駒に変えてしまう。事件という盤上を最善の形で決着させるためならば、自らの犠牲をも厭わない。
 物語は、最後の最後まで目が離せないサスペンスフルな展開。
 サブタイトルでもある『その男に騙されるな』も上手い。その男とは決して、住本のことだけを言っているのではないのだから……。
 全てを疑っても、ラストはまんまと騙されてしまった。「お前もか……」と思わずにはいられない。
『外事警察』は、ドラマを観てないからといって見逃すのはあまりにも惜しい傑作である。

 どうしてそんなに惜しいのか? それは、物語のキーとなる震災、原子力、核など現代の日本を思わせる数々の要素が関係している。
 追記ではネタバレをせずに、この映画が訴えかけるテーマを可能な限り紐解いて行きたいと思う。久しぶりにマジメな映画のレビューだぜ!





 前述したとおり、物語は震災後を舞台に、日本で核によるテロが起こるかもしれないという一大事件だ。

 震災後で、核――即ち原子力問題。
 これはまさに、今我々が実際に直面している原発問題と繋がりはしないだろうか?
 世間では再稼動だの原発放棄だので賑わっているが、この映画ではそうした一般人の反応というものはあまり描かれない。
 それもそのはず、全ては住本達が極秘裏に調査を進めているのだから。
 実際問題、原発に関してもどこまで作業が進められているのかなんて不明瞭だし、開示される情報も要領を得ないものばかりだ。一体どうして政府は原発の再稼動に踏み切ったのか?
 明確で納得のいく理由を、未だに我々は聞かされていない。もしかするとノリで言ったのかも知れないし、然るべき理由がちゃんとあるのかもしれない。ただ、まだ言う機会ではないというだけで。

『外事警察』でも、政府側が事件に関しての会見を開くなどということは一切ない。というか、ウランの流出や機密ファイルの盗難すら公表されることはない。
 全ては世間の裏側で進行している。我々一般人の知らないところで、物事は動いているのだよと、この映画は言っているのかもしれない。
 特に物語のラスト、住本と事件の黒幕が対峙するシーンは印象的だ。黒幕は「新しい世界を創る」と言うのだが、それが果たして何を意味しているのかは劇場で。
 ともかく、そこで描かれる会話シーンは物語的にもテーマ的にも非常に重要な場面となっている。サスペンスとしての面白さを発揮しつつ、しっかりとそれがテーマに寄り添っているという、完璧な形で成り立っているのだ。

 ともかく私が言いたいのは、『外事警察』で描かれたストーリーが、実際にあってはならない出来事なのだということ。いわゆる反面教師のようなものである。
 単純に核テロがどーのこーのも起こってはいけないし、全ての出来事が一般人に知られぬまま始まり、終わるという一連の流れそのものもだ。
 全てが終わり、ある人物が記者会見を開くシーンがある。そこである人物の言うセリフは、それだけ聞けば本当にただの奇麗事だ(実際に奇麗事ですが、と断ってはいる)。
 その裏で起こっていた事の詳細など一切言わずに、結論だけを述べる。←これは、原発再稼動に踏み切ったという事実だけを伝えた政府そのものではないだろうか?

 裏で事件を処理する、住本のような存在は確かに必要だろう。隠さなければならない真実など、この世には幾らでもある。この映画は、決して外事警察を批判しているわけではない。
『外事警察』は、実際の外事警察が取り扱う事件を、現代的なテーマと結びつけるという離れ業を成し遂げたのだ。
 外事警察という、聞きなれない職業の現実をしっかりと描きつつ、そこにそれとは全く別に製作側のメッセージを込めているのだとすれば、これほど優れた出来の映画はそう見当たらないだろう。
 特に邦画界でならなおさらだ。『ホタルノヒカリ』なんかにうつつを抜かしている場合じゃないぞ、日本人よ!
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No title
コメント失礼します。
興味はあったもののドラマを観ていなかったのでずっと二の足を踏んでいたのですが、この記事を読んで俄然観たくなってきました・・・!
今週末でも時間を作って観に行って騙されてこようと思います(笑)
  • 2012-06-15│00:57 |
  • alai Lama URL│
  • [edit]
Re: No title
>alai Lamaさん
 コメントありがとうございます!
 是非ご覧になってください!順番は前後しますが、きっとドラマが観たくなりますよ!←まだ観てない奴
 本当に、色んな奴に実は騙されている映画です!
  • 2012-06-16│01:38 |
  • 饂飩粉 URL│
  • [edit]

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